Interview#4

蒲鉾で、

みんなをもっと

笑顔にしたい

  • 株式会社松澤蒲鉾店

    専務取締役

    松澤 誠さん

「老舗という言葉は、自分たちではあまり使いたくない」と松澤さんは言う。

中で働いている僕たちは、それを意識したことはあまりなくて。むしろ、代替わりしたばかりの今は、まだ“生まれたて”くらいの気持ちでいます。しかしそれとは別に、110年の歴史の重みを大切にしなければ、とは思っています。 2016年の代替わりを機に、経営理念を初めて成文化したのですが、その時に50年くらいうちで働いてくれている方に聞いてみたんですね。「どうしてうちでずっと働いているんですか?」って。そしたら、「私は先代の会長にとてもお世話になったから」と私の祖父の話をしてくださって。人と人との繋がりを大切に、対等に思いやりをもって仕事してきたからこそ続いた110年なんだ、ってことを改めて感じました。

1910(明治43)年創業。今年110周年を迎えた松澤蒲鉾店は、仙台でも屈指の歴史ある蒲鉾店だ。 スタンダードな笹蒲鉾をメインに据えつつ、1980(昭和55)年には「カステラ蒲鉾」、2007(平成19)年には牛タンを練り込んだ「ささタン」で農林水産大臣賞を受賞するなど、新たな味づくりにも積極的に取り組んでいる。

自分も元々製造畑の人間なので、ものづくりの現場が大好きです。午前中は工場の中で管理を含めた実作業をし、午後はしぶしぶメールチェックやデスクワークに手を付ける感じです(笑)。主な仕事は商品開発ですが、それも現場に立つ時間があってこそだと思っています。 2017年に商品化・販売になり、おかげさまでご好評いただいている「半熟ばくだん」も、現場での会話から生まれたもの。成文化したばかりの経営理念「蒲鉾で、もっと笑顔を」について、「僕たちはこれからどういう商品でお客様を喜ばせて言ったらいいんだろうか」とお昼時にみんなで話していたんです。

その時、たまたまうちのかみさんがお弁当に半熟玉子を具にしたおにぎりを持たせてくれていた。「これうまいなー」なんて食べながら、「これが蒲鉾だったら面白いよね」という話になって。 「おいしいし、断面のとろっとしたところを見ると、なんかニヤニヤしちゃうよね、あれ?これだ!」って。以前からおでん種としてのばくだんは作っていたので、すり身で卵を包むというノウハウは持っていましたが、中のゆで卵を半熟卵にするというアイデアはその時初めて意識しました。

そこからはずっとトライ&エラーの日々。最初は普通にスーパーから卵を買ってきて、まずは半熟卵から試作して。何分でどれくらい黄身が固まるのか、どれくらいの半熟具合だと一番おいしいか、茹でて食べて茹でて食べて。「手できれいに剥くの、大変だね」なんてみんなで話しながら。 しかもその半熟卵をすり身で包んで揚げるわけですから、そこを踏まえてどれぐらいの半熟具合をキープさせるかも問題でしたし、日持ちのことも考えなきゃいけなかったしで、テストの繰り返し。ようやく満足のいくレシピができた時は、嬉しかったですね。

松澤さんと「都の杜・仙台」との邂逅は、2018年に開催された「第5回新東北みやげコンテスト」の最終選考会場。「松澤蒲鉾店」が出品していた、高たんぱく低脂肪な魚肉の特徴を活かしたヘルシーなお魚スイーツ「ふ和らん」がきっかけだった。

「なんか面白そうなことやっているな」と目に留めていただいたんでしょうね。この商品もまた、経営理念のひとつである「蒲鉾で、もっと笑顔を」に基づき生み出したものでした。 低カロリーな魚肉たんぱくで、健康的かつ充実したおやつタイムを楽しんでほしい、と。「都の杜・仙台」に参加してみて初めて、仙台にもクリエイティブな人たち、面白いことやっている人たちがこんなに多いんだな、ということを知りました。 それまでは社外交流というと、経営者としての視座を持った方たちとの交流がほとんどでしたが、「都の杜・仙台」に参加している方は職人さん的な立ち位置の方が多い。

経営者目線というよりはクリエイター目線の人が多くて、知らない世界がいっぱいあるな、と驚きました。それがすぐダイレクトにうちの商品づくりに結びつくかといえばまだまだこれからではあるけれど、このプロジェクトはずっと続いてくものだし、これからもどんどん仲間が増えていくと思うので、そういううねりみたいなものの中で少しずつお互いにインスパイア、影響を受けながら新しい仙台のかたちみたいなものを発信していけたらいいんじゃないかな、と思います。

新しいことをやろう、やりたい、という思いの発露は、新たな人脈を引き寄せ新たなアイデアを生む。3月に発売されたばかりの、のどぐろを使った笹かまぼこも、水産業者さんからの問いかけがきっかけだった。

「石巻の港に小さいのどぐろがたくさん水揚げされているんだけれど、何か活用できないか」というお話を水産業者さんから聞いたんです。 通称「のどぐろ」には二種類あって、ひとつは有名なアカムツ。もう一つは、ユメカサゴという魚です。石巻で取れるユメカサゴは、大きいものは魚屋さんに卸されますが、型の小さいものは商品価値が付きづらく、そのまま捨てられるか雑魚として処理され、表にはなかなか出てこない。 ただ、味はとてもいい。確かにもったいないな、と思い試作品を作ってみたら、とてもおいしくできました。


現在、ほとんどの笹かまメーカーさんが冷凍すり身を使っていると思いますが、裏ごししたり混ざり物を取るために何度も水にさらしたりするものなので、だいぶ魚の味は淡くなってしまう。 昔はそれこそ、うちの工場から近い仙台中央卸市場から買ってきた助宗鱈(スケソウダラ)を職人さんがさばいて練って作っていたから、味が濃くてとてもおいしかったんだ、と昔からいる職人さんがよくおっしゃっています。

100年前の味は私には知る由もないけれど、「松澤蒲鉾店」の基本の味のレシピはずっと受け継がれてきたもの。時代に合わせて多少の変化は施してきたけれど、おいしいかまぼこを作ろうという芯の部分はブレずに来たと思っています。 そのレシピをもとに作った「のどぐろ」の笹かまぼこは、やっぱり「魚」本来の味がしました。小さい魚を使うのでその分、手間はかかるけれど、いままでは廃棄する下魚だったものにスポットが当たれば、新たな価値が生まれ、石巻の魚全体が見直されるんじゃないか、とも思っています。

伝統を守りながら、革新的な発信をしていくことで、笑顔の輪を広げていくことができると松澤さんは話す。そのチャレンジを続けていくためにも、「都の杜・仙台」プロジェクトに期待している。

ここ3年ほど、「半熟ばくだん」、「ふ和らん」、そして「のどぐろ笹かまぼこ」と新商品開発に勤しんできましたが、それまではもうずっと何年も定番商品を作ってきていました。笹かまぼこに揚げかまぼこ、蒸しかまぼこ。うまいものを作っている自負はありました。 けれど、「じゃあ他社とは何が違うのか」と問われた時に、うまく答えられなかった。歴史が長いのは他社さんも同じですし、「うちはこれなんだ、この味なんだ」と自信を持って言えるものを自分の中に持っていなかったんです。 それが、「半熟ばくだん」で「蒲鉾で、もっと笑顔を」という理念に適うものができた時、それこそが自分たちの軸だ、と思ったんです。

「うちは、皆さんを笑顔にする蒲鉾づくりの会社です」と。そして私は、マーケット・インみたいな考え方があまり得意じゃなくて、新しいマーケットを作っていきたいと考える派。そんな私に向かって、昨年5月に入社したばかりの社員がものすごく客観的かつ端的に言ったんです。「うちのかまぼこって、一言で言うと伝統と革新じゃないですか」って。「伝統のかまぼこを守りながら、革新的なものを発信していく。それを実践しているのが松澤蒲鉾店ですよね」って。 意識してそうしてきたわけではないけれど、いつのまにかそうなっていたというのは、自信を持ってもいいのかな、と思います。

そんな「松澤蒲鉾店」の個性をもっともっと進化させていくためにも、「都の杜・仙台」に期待するものは大きいです。笹かまぼこというジャンルは、そうはいってもまだまだ王道が強い。 その中でチャレンジを続けていくためには、まずは自力で闘える力を育てながら、他の皆さんの力をお借りして新しいものを生み出していく必要がある。そして、自分も誰かの力になって一緒に仙台を盛り上げていきたい。発信力という意味ではこれからなのかな、とは思います。 まだまだ認知度は低い。「仙台で面白いことやっているな」ということが全国に広まってほしいと思うけれど、それもまた事業者である自分たちが協力してやってかなきゃいけないこと。それを忘れずに、プロジェクト自体を楽しんでいこうと思っています。